本記事は note で先行公開した記事を、加筆・再構成したものです。
はじめに:FL階層で書き始めた業務棚卸表が、必ず止まる場所
同シリーズの前回記事「ファンクションレイヤー入門」で、業務分解の階層モデルを紹介しました。
営業部の「商談」と製造部の「組立」は粒度が違う。FL3-FL4-FL5の3階層で整理しましょう、という話でした。
今日は、その続編です。
「FL階層で業務棚卸を作ろう」と決意したとき、ほぼ全員がExcel(またはGoogleスプレッドシート)を開きます。
最初の30分は順調です。
FL3「受注処理プロセス」と書く。
FL4「与信確認」「在庫引き当て」「出荷準備」と書く。
FL5を書いていく。
——でも、ある段階で、必ず止まります。
業務棚卸表が、Excelで作りきれないんです。
今日は、その「3つの壁」と、それを解決するJOARS(ジョアース)というツールの話をします。
1. 壁①:FL3とFL4を毎回コピペ問題
最初の壁です。
たとえば、FL3「受注処理プロセス」の下に、FL4「与信確認」があって、その下にFL5が5個あるとします。
- FL5: 与信ランクを照会する
- FL5: 過去取引履歴を確認する
- FL5: 与信限度額をチェックする
- FL5: 承認者にエスカレーションする
- FL5: 結果を記録する
これをExcelで書くと、こんな表になります。
| FL3 | FL4 | FL5 |
|---|---|---|
| 受注処理プロセス | 与信確認 | 与信ランクを照会する |
| 受注処理プロセス | 与信確認 | 過去取引履歴を確認する |
| 受注処理プロセス | 与信確認 | 与信限度額をチェックする |
| 受注処理プロセス | 与信確認 | 承認者にエスカレーションする |
| 受注処理プロセス | 与信確認 | 結果を記録する |
お気づきの通り、「受注処理プロセス」と「与信確認」を、5行分コピペしています。
なぜか。
FL3とFL4の列を空欄にすると、Excelでフィルタやソートをしたときに、データが分散して扱えなくなるからです。
「与信確認のFL5を全部見たい」と思ってFL4列でフィルタすると、空欄の行は出てこない。だから、しょうがなく全行に書き込む。
これ、FL3が3本、FL4が各3本、FL5が各10個の会社だと、何回コピペが発生するか分かりますか?
FL3を書くのが90回、FL4を書くのが90回、合計180回のコピペ。
これ、手作業でやると本当に消耗します。
そして、最大の問題は、コピペミスが必ず混ざることです。
FL4を「与信確認」と書くつもりが、ある行だけ「与信チェック」になっていたら、フィルタで漏れる。
データとしては破綻している。でも、見た目では気づかない。
2. 壁②:セル結合の誘惑
コピペ地獄に疲れた人が、次にやることが決まっています。
「見た目を整えるためにセル結合する」。
5行のFL4列を結合して、「与信確認」と1回だけ書く。一見、スッキリします。表が読みやすくなる。
——でも、これをやると、業務棚卸表が死にます。
セル結合が入った表は、こんな状態になります。
- ソートできない(結合セルが分断される)
- フィルタが変な動きをする(結合されている部分が消える)
- 集計式が崩れる(範囲が変な計算をする)
- 別の場所にコピーすると結合が崩れる
- CSVで出力すると、結合されていた部分が空欄になる
業務棚卸表の本当の価値は、「データとして集計・分析できること」です。
判断点が何個あるか、どの部署に集中しているか、どのFL5とどのFL5がデータ項目を共有しているか——こういう分析ができてこそ、業務改革の起点になる。
でも、セル結合が入っていると、これが全部できなくなる。
つまり、業務棚卸表が「資料」になって、「データ」じゃなくなるのです。
これは見た目の問題ではなく、構造の問題です。
Excelは、本来「正規化された表」を扱うツールです。セル結合は、人間が見やすくするための補助機能であって、データ構造の表現ではない。
業務棚卸表のように「親子関係を持つ階層データ」を、Excelの平坦な表形式で表現しようとすると、必ずどこかで歪みが出る。セル結合は、その歪みの妥協策にすぎないのです。
3. 壁③:FL5追加が地獄
そして、3つ目の壁。これが一番ボディブローのように効いてきます。
業務棚卸表は、最初に全部書ききれるものではありません。
実際の進め方は、こうなります。
- 一旦、ざっくり書いてみる
- 現場ヒアリングする
- 「あ、この作業、抜けてました」と追加する
- また現場ヒアリングする
- 「これは2つの作業に分けるべきです」と修正する
つまり、棚卸表は生き物です。育てていくものです。
ところが、Excelで途中にFL5を1個追加するとどうなるか。
- 該当する行に移動する
- 行挿入する
- FL3とFL4を上の行からコピペする
- 工程ID(TaskID/StepID)を再計算する
- 隣の列(次工程ID)との整合性を確認する
- 関連するデータ項目を更新する
これ、5分はかかります。「ちょっと追加するだけ」が、5分の作業になる。
現場ヒアリングで「あ、この作業抜けてました」と言われたとき、心の中で「あとでやろう」と思って、忘れます。
そして、棚卸表は「現場の実態と乖離した古い資料」になる。
これが、私が「Excelの業務棚卸表は半年で死ぬ」と言っている理由です。
最初の作成時点では、まあ動いている。
でも、追加・修正のコストが高すぎて、メンテナンスされなくなる。半年後に見たら、現場の業務はもう変わっていて、棚卸表は古い情報のまま放置されている。
棚卸表が死ぬのは、現場が悪いのではない。ツールが悪いのです。
4. JOARSのツリー構造が、3つの壁を同時に解決する
これら3つの壁を、同時に解決する道具がほしい。それを目指して作ったのが、私たちのJOARS(ジョアース)というツールです。
JOARSの業務棚卸表は、見た目はExcelに似ています。でも、内部構造が全く違います。
「ツリー構造」でデータを持っているんです。
FL3「受注処理プロセス」というノードがあって、その下にFL4「与信確認」「在庫引き当て」というノードがぶら下がる。さらにその下にFL5がぶら下がる。
データとしては、こうなっています。
受注処理プロセス
├── 与信確認
│ ├── 与信ランクを照会する
│ ├── 過去取引履歴を確認する
│ ├── 与信限度額をチェックする
│ ├── 承認者にエスカレーションする
│ └── 結果を記録する
├── 在庫引き当て
│ └── ...
└── 出荷準備
└── ...
ツリー構造で持っているから、何が変わるか。
解決①:コピペ不要
FL3を1回書けば、その配下のFL5全部に親子関係で紐づきます。FL3とFL4のコピペは、一切不要。
データ上は親子関係なので、フィルタやソートも自由自在。
「与信確認のFL5を全部出して」と言えば、子ノードが全部出てくる。Excelのフィルタとは仕組みが違うのです。
解決②:セル結合不要
ツリー構造なので、見た目もツリーで表示できる。
Excelで言うところの「セル結合した状態」が、データ構造として最初から実装されているわけです。
しかも、データとしては正規化されているので、CSV出力、集計、分析、全部できる。見た目はツリー、データは正規化——これがJOARSの設計思想です。
解決③:FL5追加は「+ボタン1回」
FL4ノードに対して、「+子追加」ボタンを押すだけ。新しいFL5が追加されます。
工程IDの自動補完、隣のFL5との関係付け、CRUD表への自動展開、全部勝手にやってくれます。
追加コストが、Excelの1/10以下になる。
これが大事なんです。追加コストが低いから、棚卸表が育つ。
現場ヒアリングで「あ、追加します」が、本当にその場で追加できる。
棚卸表が生き物として育つ。そして、半年経っても、1年経っても、現場の実態を反映し続ける。これが、業務棚卸表の本来あるべき姿です。
5. それ以外にJOARSができること
業務棚卸表をツリー構造で持つと、副次的に色々できるようになります。
業務フロー(BPMN)の自動生成
棚卸表のFL5の連鎖(TaskID/StepIDの順序)から、業務フロー図が自動的に描かれます。手でフローチャートを描く必要がない。
CRUD表への接続
FL5アクティビティ × データ項目のマトリクス(CRUD表)が、棚卸表から自動展開される。
「どの作業がどのデータを触っているか」が一目瞭然になる。
バージョン管理
AS-IS(現状)とTO-BE(理想)の棚卸表を、別バージョンとして管理できる。差分を追える。
判断点の集約
FL5の中の「判断点」だけを抽出して、判断地図を作れる。どこに判断が集中しているかが見える。
——これらは全部、ツリー構造で正規化されたデータがあるから実現できる機能です。Excelからは絶対に出てこない発想です。
6. 「触ってみないと分からない」ので、無料で使えるようにしました
ここまで読んで、「ツリー構造ってそんなに違うの?」と思った方もいるかもしれません。
正直、文字で説明しても、限界があります。
なので、JOARSは工房会員フリープランで、無料で使えるようにしました。
フリープランで、業務棚卸表を1本作れます。
E2Eで完結する業務プロセスを1個、FL3-FL4-FL5で書いてみてください。30分くらいで体感できます。
「Excelの何が悪かったのか」「ツリー構造で書くと何が楽になるのか」——これは、実際に触ってみるのが一番です。
まとめ
今日のまとめです。
- Excelで業務棚卸表を作ると、3つの壁にぶつかる
- 壁①:FL3とFL4を毎回コピペ
- 壁②:セル結合の誘惑(しかしデータが死ぬ)
- 壁③:FL5追加が地獄
- これらは、Excelの平坦な表構造で「階層データ」を扱おうとしているから起きる
- JOARSはツリー構造でデータを持つので、3つの壁を同時に解決する
- 副次効果として、業務フロー自動生成・CRUD表・バージョン管理・判断点抽出ができる
業務棚卸表が「半年で死ぬ」のは、現場が悪いのではありません。ツールが悪いのです。
棚卸表を「生き物」として育てたい方は、JOARSのフリープランで、まず1本作ってみてください。
同シリーズの「ディシジョンテーブル vs ディシジョンツリー」記事では、業務棚卸表の最後の難関「ベテランしかできない判断、どう書くか」を扱っています。あわせてご参照ください。
JOAコンサルティングのご案内
株式会社ファインドルートでは、中小企業の業務改革・DX推進をご支援しています。JOARS(ジョアース)は、JOA手法を実装するクラウドツールとして、業務棚卸を「生き物として育てられる」運用環境を提供します。
- 業務棚卸を通じた判断ボトルネックの可視化
- 判断志向アーキテクチャ(JOA)に基づく業務フロー再設計
- DEM(判断進化マトリクス)による打ち手の優先順位付け
- 業務システム実装支援(生成AI・ノーコード・SaaS活用)
「うちの業務にも当てはまるか、相談してみたい」という経営者の方は、お気軽にお問い合わせください。
📩 お問い合わせフォーム
📺 YouTube「判断の進化チャンネル」(隔週更新)
本記事は、代表 佐野尚人のnote「判断の進化」マガジンで先行公開した記事を、HP用に加筆・再構成したものです。
note原典版はこちら:[Excel業務棚卸の限界 — JOARSのツリー構造が解決する3つの問題]