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ディシジョンテーブル vs ディシジョンツリー|ベテラン判断の言語化はなぜ「表」が勝つのか

2026-08-25|note|業務フロー・業務改革・ファンクションレイヤー・JOARS・工房会員・ディシジョンテーブル・DT・フローチャート

noteに掲載した記事をブログにしました。

 

▸▸▸判断の進化 シリーズ



本記事は note で先行公開した記事を、加筆・再構成したものです。

 

はじめに:「ベテランしかできない」業務をどう書くか

業務改革の現場で、絶対に出てくる問いがあります。

 

「この判断、ベテランしかできないんです」

 

製造業の受注可否判断。介護のケアプラン作成判断。建設の工程変更判断。受託開発の要件追加判断。

——どの業界にも、「あの人がいないと回らない」業務があります。

 

新人に教えても3ヶ月かかる。マニュアルにしようとしても、ベテランから「ケースバイケースだから」と言われる。

——本当にケースバイケースなのか。

実は、99%のケースで、ベテランの判断は構造化できます。ただ、その「書き方」が間違っているから、できないように見えるだけです。

今日は、その正しい書き方——「ディシジョンテーブル」というツールについて書きます。

 

1. みんなが最初に使うのは「フローチャート」

「判断をマニュアル化したい」と思ったとき、ほぼ全員が最初に試すのは、フローチャート(またはディシジョンツリー)です。

たとえば、製造業の受注可否判断を、フローチャートで書いてみる。

[在庫はあるか?]
   ├── YES → [納期は間に合うか?]
   │            ├── YES → [与信は大丈夫か?]
   │            │            ├── YES → 受注OK
   │            │            └── NO → 経理に確認
   │            └── NO → 営業に確認
   └── NO → [追加発注すれば間に合うか?]
                ├── YES → 営業に確認
                └── NO → 受注NG

これ、最初の3条件くらいまでなら、綺麗に描けます。Visioでも、PowerPointでも、ホワイトボードでも。

でも、判断条件が5個、10個になると、絶対に破綻します。

なぜか。フローチャートは、条件が増えるたびに、構造を全部書き直さないといけないからです。

 

2. フローチャートの3つの致命傷

フローチャートで判断ロジックを書くと、こんな問題に必ずぶつかります。

 

致命傷①:ケース追加が「全部書き直し」

「VIP顧客の場合は、与信限度額を倍まで認める」みたいなルールを追加したい。

フローチャートだと、どこに「VIPかどうか」の分岐を入れるかで、構造が大きく変わります。

最上位に入れるなら、ツリーが2倍に膨らむ。途中に入れるなら、その下のツリーを全部複製する。

結果、ホワイトボードで描いた図を、全部消して書き直すことになります。

 

致命傷②:条件削除が「線のつなぎ直し」地獄

「在庫チェック」という条件を削除したい、というケース。

フローチャートで、真ん中の条件を削除すると、上の枝と下の枝を全部つなぎ直す必要があります。

これ、ホワイトボードでやると、矢印が交差して、何の図か分からなくなる。

PowerPointでやると、図形の整列が崩れて、見た目を整えるだけで30分かかります。

 

致命傷③:データベースで扱えない

これが一番大きい問題かもしれません。

フローチャートは「グラフ構造」です。ノードと矢印で表現される。

データベースに保存しようとすると、ノードとエッジを別テーブルで管理して、再構築のロジックを書く必要がある。

そして、フローチャートのままでは、CSVでもExcelでも、自由に扱えない。

専用ツール(Visio、bpmn.io、Lucidchart)が必須になります。

結果、「判断ロジックは、Visioで描いた図に閉じ込められたまま」になる。

Excelで管理している業務リストとも連携できない。AIに食わせて自動化を検討することもできない。

 

3. ディシジョンテーブル(DT)という解法

これらを全部解決するのが、ディシジョンテーブル(Decision Table、略してDT)です。

 

DTは、判断ロジックを表形式で書く方法です。

縦に条件を並べる。横にケース(パターン)を並べる。それぞれのセルにY(Yes)/N(No)を入れる。最後に、結論を書く。

たとえば、先ほどの受注可否判断をDTで書くと、こうなります。

条件 / ケース C1 C2 C3 C4
在庫あり Y Y N N
納期OK Y N Y N
与信OK Y - - -
結論 受注OK 営業確認 追加発注検討 受注NG

これだけです。

判断条件3個に対して、4ケース(同じケースは1つにまとめる)が書けています。「-」は「どちらでも良い」を意味します。

「これ、フローチャートと何が違うの?」と思うかもしれません。違いは、変更コストです。

 

4. DTの強さ——変更コストの圧倒的な低さ

DTのすごさは、判断ロジックを変更するときに現れます。

 

ケース追加 → 列を1本足すだけ

「VIP顧客の場合は、与信限度額を倍まで認める」を追加したい。

DTなら、新しい列を1本追加します。「VIP顧客」という条件を縦軸に追加して、その列のセルに「Y」を入れて、結論を書く。それだけ。既存のケースの列は、一切触らなくていい。

 

条件追加 → 行を1本足すだけ

「天候による配送リスクも考慮したい」を追加したい。

DTなら、新しい行を1本追加します。「天候OK」という条件を行で追加して、各ケースに対してY/N/-を埋める。それだけ。既存の列は、関係する箇所だけ更新すればいい。

 

真ん中の条件を削除 → 行を消すだけ

「在庫チェックはもう自動化したから、人の判断から外す」を反映したい。

DTなら、「在庫あり」の行を削除するだけ。上下のつなぎ直しは一切不要。データ構造が完全に独立しているからです。

 

5. DTのもうひとつの強さ——データベースで扱える

DTは表形式なので、そのままCSVファイルにできる。

これは大きいです。判断ロジックをデータベースに保存できる、ということです。

CSVで管理できると、こんなことができるようになります。

  • バージョン管理(GitやExcelで差分を追える)
  • 一括変更(他のDTから条件をコピーできる)
  • 集計・分析(「YESが多い条件は何か」みたいな分析ができる)
  • AIへの食わせ込み(構造化された入出力を、LLMが読み取れる)

特に最後が大事です。DTで明示化された判断ロジックは、AIに引き継ぎやすいのです。

「ベテランの判断を、AIに代行させたい」という話、最近よく聞きます。でも、フローチャートで書かれた判断は、AIに渡すのが難しい。DTで構造化された判断なら、そのままLLMにプロンプトとして渡せる。

判断のAI化を考えるなら、まずDTで書く。これが王道です。

 

6. 比較表で整理する

ここまでの話を、1枚の表にまとめます。

観点 フローチャート DT(ディシジョンテーブル)
ケース追加 構造を書き直し 列を1本追加
条件追加 ツリー全体を再構築 行を1本追加
真ん中の条件削除 線のつなぎ直し(最も面倒) 行を削除するだけ
データベース連携 グラフ構造の中間処理が必要 表形式のまま扱える
変更履歴の追跡 ノード単位の変更が追いにくい セル単位で追える
AIへの引き渡し 構造変換が必要 そのまま渡せる
視覚的な分かりやすさ 直感的(最初の3条件まで) やや慣れが必要

最後の「視覚的な分かりやすさ」は、フローチャートに軍配が上がります。最初の3条件くらいまでなら、フローチャートのほうが直感的です。

でも、現実の業務判断は、5条件、10条件あります。そうなると、DTのほうが圧倒的に扱いやすい。

 

7. DTは「業務フローの菱形」を置き換える

ここで、業務フロー図に詳しい方は、こう思うかもしれません。

 

「業務フローの中で、判断は『菱形のゲートウェイ』で書くんじゃないの?」

 

その通りです。BPMNとかフローチャートの記法では、判断は菱形で表現します。

ところが、菱形だけでは、判断の中身が書けない。「在庫あり?」と書いて、YES/NOで分岐する、までしか書けないんです。

 

判断の中身——「在庫×納期×与信×VIPフラグの組み合わせで、結論が変わる」みたいな複雑なロジック——は、菱形の外側に、別途記述する必要がある。

そして、その「菱形の中身」を書くのが、DTの役割なのです。

つまり、業務フロー図とDTは、こういう関係になります。

  • 業務フロー図:業務の「順序」を表現(誰が→何を→次に→次に)
  • DT:業務フロー上の判断の「中身」を表現(条件×ケース→結論)

両方セットで、業務全体が表現されます。業務フローの菱形=DTへのリンク、と捉えると分かりやすいです。

 

8. ベテランの判断は、表に書ける

最後に、もう一度この問いに戻ります。

「ベテランしかできない判断、どう書くか」

——答えは、DTです。表に書けます。

書けないように見える理由は、3つあります。

  1. 書き方を知らない(フローチャートで書こうとして失敗している)
  2. 条件を全部洗い出していない(ベテランは無意識に判断材料を使っている)
  3. ケースを全部考えていない(例外パターンを言語化していない)

DTを使うと、この3つを構造的に解消できます。

縦に条件を並べる作業を通じて、ベテランが何を見ているかが明確になる。

横にケースを並べる作業を通じて、判断の網羅性が確保される。

そして、書き終わったDTを見ると、ベテラン自身が「あ、自分はこういうロジックで判断していたんだ」と気づきます。これが、判断の言語化、判断の構造化、判断の継承の第一歩です。

 

9. JOARSなら、DTがすぐ書ける

JOARS(ジョアース)のフリープランで、DTがすぐ作れます。

業務棚卸表でFL5の判断点を見つけたら、その判断点に対してDTを紐づけて書く。条件追加・ケース追加が、ボタン1回でできます。

「ベテランの判断を、DTで書いてみる」——これだけで、現場のマニュアル化が一段階前に進みます。

 

まとめ

今日のまとめです。

  • 業務改革の現場で、「ベテランしかできない判断」は必ず出てくる
  • これをフローチャートで書こうとすると、必ず破綻する(3つの致命傷)
  • ディシジョンテーブル(DT)なら、列・行の追加だけで済む
  • DTは表形式なので、データベース、AI、バージョン管理と相性がいい
  • 業務フローの菱形は、DTへのリンクとして捉えると整理できる
  • ベテランの判断は、書けないように見えるだけ。DTで書ける

「FL階層」「Excel業務棚卸の限界」「ディシジョンテーブル」——同シリーズのこの3記事を押さえていただければ、業務改革の土台ができます。

あとは、実際に手を動かしてみてください。JOARSのフリープランで、自分の会社の業務を1本、棚卸してみる。

FL5の判断点を1個、DTで書いてみる。それが、業務改革の第一歩です。


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本記事は、代表 佐野尚人のnote「判断の進化」マガジンで先行公開した記事を、HP用に加筆・再構成したものです。
note原典版はこちら:[ディシジョンテーブル vs ディシジョンツリー — なぜテーブルが勝つのか]