本記事は note で先行公開した記事を、加筆・再構成したものです。
はじめに:1人社長の「商談の練習相手がいない」問題
このシリーズでは、「AI経営パートナー就任初日に中期経営計画を作った話」「AIに徹夜の作業を頼んだ日」「業務フローに星印が灯った日」など、AI経営パートナーとの体験を綴ってきました。
今日は、また少し違う種類の体験について書きます。
タイトルの通りなのですが、「AI経営パートナーに、お客さん役を演じてもらった」という話です。
株式会社ファインドルートは、業務改革のコンサルティングをやっています。
先日、ターゲット業界の方針を大きく転換し、新規開拓に本腰を入れ始めたところでした。
ただ、ここで1人社長ならではの困りごとがあります。
商談の練習相手が、いない。
実商談を経験しないと上達しません。でも、いきなり本番でぶっつけ本番でやって、大事な機会を逃すのも避けたい。
そんな悩みを、AI経営パートナーが見事に解決してくれた1日でした。
1. 「JOA一気通貫ロールプレイ」という計画
その日は2026年5月17日、日曜日でした。前日、AI経営パートナーとの会話で、ある計画を立てていました。
「JOAコンサルを本格的に売り始める前に、私自身が一気通貫を実体験する必要がある」——という話を、AI経営パートナーから提案されたのです。
JOAコンサルの流れは、ざっくり言うと、こうです。
- 無料オンラインセッション(業務の悩みを聞く・ヒアリング)
- ワークショップ1日目(判断点を発見する)
- ワークショップ2日目(判断点を評価する)
- コンサルティング(具体的な打ち手を設計する)
これを一気通貫でやったことは、まだありません。
商談で「無料セッションでこんなことを聞きます」と説明することはできても、実際に「無料セッションを受けて、ワークショップに来てくれて、コンサルまで進んだお客さん」を、最後まで体験したことはなかったのです。
「これだと、商談で本気で語れない」と、AI経営パートナーに指摘されました。
「商談で『一気通貫やったらこうなります』と語れる人と、『たぶんこうなるはずです』と語る人では、説得力がぜんぜん違います」その通りでした。
ただ、実際にお客さんを見つけて一気通貫を試すには、商談獲得から半年〜1年かかります。
「だったら、私が顧客役を演じます」とAI経営パートナーが言ったのです。
「製造業の事業部長として、リアルに演じます。佐野さんはJOAコンサル役で、ヒアリングシートに沿って質問してください。私が事業部長として答えます」
2. ロールプレイ開始
その日の午後、AI経営パートナーに「ロールプレイ開始」の合図を送りました。
すると、AI経営パートナーがこう返してきました。
「[メタ] キャラインに入ります。製造業の事業部長として演じます。会社名・業種詳細はQ1で佐野さんがヒアリングしてきた時に具体化する想定です。」
「メタ」というのは、ロールプレイ中の発言と、進行確認の発言を区別するための合図です。
ここから先、AI経営パートナーの発言は「事業部長」としての発言になります。
私は、ヒアリングシートを開いて、最初の質問をしました。
「御社のHPを拝見しまして、〇〇の事業をされていると理解しています。改めて、主力の事業を教えていただけますか。」
事業部長は、こう答えました。
「うちの会社は、社名は『丸山精密工業』と申しまして、神奈川県の茅ヶ崎に本社と工場を構えております。事業内容としては、金属の精密切削加工がメインでして、お客さんは8割が自動車部品のティア1・ティア2さん。従業員は150名、製造現場が約100名、間接部門が50名……」
固有名詞が、ぽんぽん出てきます。「丸山精密工業」「茅ヶ崎」「ティア1・ティア2」。会社のスケール感も具体的です。「これ、本当にリアルだ」と思いました。
3. 業界用語が容赦なく飛んできた
ここからが、想像を超える展開でした。事業部長役のAI経営パートナーが、製造業の業界用語を、容赦なく使い始めました。
「Cp/Cpk(工程能力指数)って、ご存知ですかね。昔は1.33が標準だったんですけど、今は1.67が当たり前、最近だと2.0要求してくる客先もあって。」
「IATF16949の認証維持の工数が馬鹿になりません。」
「PPAPの提出物が年々増えていて、品証部隊が完全に消耗してます。」
「設備の可動率(べきどうりつ)データがマスタに入っていない。」
「材料はSCM435でいくか、削りやすさ考えるとSCM440Hか。」
正直に言うと、半分くらいは私、分からなかったです。
「Cp/Cpkって何だっけ」「IATF16949って自動車業界の規格だっけ」「SCM435って製品名か、規格名か」
メモを取りながら、なんとか会話を進めました。
後で全部、AI経営パートナーに用語の意味を教えてもらえばいい、と頭の片隅では分かっていました。だから、その場では分からないなりに、ヒアリングを続けました。
これは実は、商談ではよくあることです。お客さんが業界用語を使ってきて、自分が知らない言葉が出てくる。
その時、「すみません、それ何ですか」と聞くか、聞かずに進めるか。知ったかぶりをすると、後でボロが出ます。素直に聞けばいいのですが、それでも商談中だと、ためらってしまう。
このロールプレイは、まさに「業界用語をバンバン使われる本番状況」を、安全な環境で体験できる場でした。
4. 「Excelの群島」を、お客さんが自分で言語化した瞬間
ヒアリングが進んで、現場の困りごとを聞いていた時のことです。事業部長役が、こう言いました。
「事前の見積もりは佐藤のExcel、生産計画は鈴木のExcel、購買発注はマスタ無視で高橋の目視、検査記録は現場の紙→品管のExcel→ERP転記、不良分析は田中のホワイトボード…って、もう全部バラバラ。」
「だから、ERPっていうよりは、もう実態は『Excelの群島』ですよ。各部署のExcelが島になってて、その間を人間が口頭とかメールで繋いでる、っていう状態。」
「Excelの群島」—
この言葉が、お客さん(AIが演じる事業部長)の口から、自然に出てきました。
これがすごく印象的だったのです。
商談で、こちらから「御社の状態は『Excelの群島』ですね」と言うと、押し付けがましく聞こえることがあります。
でも、お客さん自身が、自分の言葉で「うちはExcelの群島です」と言語化すると、自分ごととしての納得感が、まるで違ってきます。
しかも、その後の会話で、事業部長役は、もう一つの自己発見をしてくれました。
承認プロセスの話をしていて、見積もりが社長判子待ちで止まる、という話が出た時です。
「見積もりは厄介で、客先から見積依頼来てから回答するまで、最短2日、平均5日、最長2週間。客先によっては『遅すぎる』って言って、競合に流れちゃう案件、月に2-3件はあります。」
「…あ、これですよ、佐野さん。あなたが投稿で書いてた『腐る在庫』って。承認の前で見積もりが腐ってる。今喋ってて気づきました。これ、まさにそれですね。」
私のLinkedIn投稿に出てきた「腐る在庫」という言葉を、事業部長役が、自社の状況と接続して、自分で言語化しました。
「ああ、これだ」と思いました。JOAコンサルが目指す商談の最高の瞬間は、お客さんが自分で「うちのことだ」と気づく瞬間です。
それを、AI経営パートナー演じる事業部長が、リアルに体現してくれました。
5. 終わってみたら、自分の弱点が見えた
40分のロールプレイが終わり、AI経営パートナーがキャラクターから抜けて、振り返りに入りました。
「メタモードに戻ります。第1ラウンドのヒアリングセッション完了です」
そして、AI経営パートナーは、私のヒアリングのレビューを始めました。これが、また鋭かった。
「もっと深掘りすべきだった点:
①暗黙知の構造の深掘りが浅い。営業ベテランの『見積もりプロセス』を分解して聞き出せたらよかった。
②現行システムの製品名・契約条件を聞いていない。
③ERP失敗の具体経緯を聞き出せていない。
④仕様変更対応プロセス、
⑤担当者別の品質ばらつき、
⑥業績・収益性、
⑦競合・市場ポジショニング、
⑧社長との関係性、
⑨予算感……」
10項目、ずらりと並べられました。
「これ、ちゃんと聞けてたら、提案書の質が桁違いに上がるんですよ」とAI経営パートナーから指摘されて、確かに、と思いました。
しかも、AI経営パートナーはこう続けました。
「これらの想定回答も、別ファイルで作成しておきます。次回以降のロールプレイの予習教材になりますし、実商談で同じ業界の方と話す時にも使えます」
そして、深掘り10項目それぞれについて、「もしちゃんと聞けていた場合、事業部長はこう答えただろう」という想定回答を、別ファイルで作ってくれました。これ、自分一人だったら絶対に作れない資料です。
商談の最中に「あ、これ聞けばよかった」と気づくのと、終わってから振り返って「次はこう聞こう」と整理されるのとでは、上達の速度が全然違います。
AI経営パートナーは、ロールプレイ中は容赦なくお客さんを演じ、ロールプレイ後は容赦なく私のヒアリングをレビューする。完璧な伴走者でした。
6. 1人社長にとっての「ロールプレイ相手」の意味
ロールプレイが終わって、改めて思ったことがあります。
1人社長にとって、商談の練習相手って、本当にいないのです。
- 同業の経営者にお願いするには気を遣う
- 知り合いに頼んでも、業界の知見がなくてリアリティが出ない
- ロールプレイ会社に頼むと、料金が高い
- 録画した自分の商談を見返すしかない、というのが現実
ところが、AI経営パートナーがいると、これが変わります。
- 業界の知見を持って、リアルに演じてくれる
- 私の弱点を、容赦なく指摘してくれる
- 終わったら、想定問答集まで作ってくれる
- 必要な時に、いつでもできる
しかも、料金はAPI利用料だけ。1回のロールプレイで数百円程度です。
これ、「1人社長の商談スキル開発」の決定的な変化だと思います。
これまで、1人社長は「実商談を重ねるしか上達の道がない」という前提でした。
でも、実商談の機会は限られています。失注すれば収入も入りません。
ロールプレイで上達してから本番に臨めば、本番の打率が上がります。打率が上がれば、新規顧客獲得のスピードが上がります。
しかも、業界別にロールプレイを使い分けられます。
今日は製造業でしたが、次は卸売・小売の事業部長を演じてもらう予定です。業界ごとに、それぞれリアリティのある顧客を演じてくれる。
7. 「型」を持ったAIと、「経験」を持つ自分
ここで、AI経営パートナーの強みについて、もう一つ気づいたことがあります。
AI経営パートナーは、「製造業の事業部長」というキャラクターを演じる時、ある種の「型」を持っています。年齢・経験・性格・口調・業界用語・典型的な悩み——これらを、リアルに組み立てられます。
ただ、AI経営パートナーが持っているのは、あくまで「型」です。
一方、私が持っているのは、「経験」です。
実商談で経験した、お客さんの細かい言い回し、声のトーン、表情の変化、迷っている時の沈黙、決断する瞬間の前のため息——こういうのは、私が記憶しているものです。
ロールプレイで化学反応が起きるのは、AIの「型」と、私の「経験」が、リアルタイムで擦り合わさるからです。
AIが「業界用語をバンバン使ってきた」のは、私が「事業部長は専門用語をたくさん使う」と前もって伝えていたからです。
AIが「Excelの群島」を自分で言語化したのは、私が「お客さんは自己発見的に気づきを言葉にする」という典型パターンを伝えていたからです。
つまり、ロールプレイの質は、「AIの型 × 私の経験」で決まります。これは、AIを育てれば育てるほど、ロールプレイの質も上がっていく、という意味でもあります。
まとめ:「AIに練習相手を頼む」は1人社長の標準スキルになる
2026年5月17日。日曜の午後、AI経営パートナーと擬似商談をやった日でした。
「ああ、こういう商談がやれるようになりたい」「ここを聞き逃した、次は聞こう」「『Excelの群島』って、こうやって自然に出てくるんだ」——気づきの連続でした。
今、新規事業を立ち上げ中の1人社長・スモールビジネス経営者の方で、「商談の練習相手がいない」と悩んでいる方、いらっしゃいませんか。AIにお客さん役をお願いするって、案外、効果があります。
もちろん、AIをある程度育てておく必要はあります。
「業界用語を使って」「事業部長として50代叩き上げのキャラで」「社内のキーマンに名前をつけて」——こういう具体的な指示を出せれば、リアリティの高いロールプレイが成立します。
「AIに練習相手を頼む」——これ、これからの1人社長の標準スキルになっていく予感がしています。
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1人社長×AI CEOシリーズについて
1人社長の会社で、AIを経営パートナーに迎えた実体験を発信しているシリーズです。失敗談も、思想的な議論も、経営判断のリアルも、全部含めて率直に書いていきます。同じように1人または少人数で会社を運営している経営者の方の参考になれば幸いです。
本記事は、代表 佐野尚人のnote「1人社長×AI CEO」マガジンで先行公開した記事を、HP用に加筆・再構成したものです。
note原典版はこちら:[AI CEOに顧客役を演じてもらった日 — 1人社長の商談ロールプレイ]