本記事は note で先行公開した記事を、加筆・再構成したものです。
はじめに:表に、行を1本足しただけの話です
先に結論を書きます。
業務の一覧表に「使っている道具」の行を1本足すと、会社の詰まりの候補地が浮かび上がります。
大きな機能を作った話ではありません。私たちの業務可視化ツールの表に、行を1本足しただけの話です。
けれども、その1本で見えるものが変わったので、書いておきます。
そしてもう一つ、先にお伝えしておきます。
この話の結論は「うちのシステムがすごい」ではありません。
あなたの会社のExcelでも、今日できる、という話です。
業務一覧はあるのに二重入力がなくならない。
誰かが作ったExcelが、基幹システムの脇でいつまでも生き残っている。
そんな心当たりのある経営者の方に読んでいただきたい内容です。
1. CRUD表という地味な道具
私たちの業務可視化クラウド「JOARS」(ジョアースと読みます)には、CRUD表という画面があります。
CRUDとは、データに対する4つの操作の頭文字です。
- C = Create(作る):データを新しく登録する
- R = Read(読む):データを参照する
- U = Update(変える):データを修正・更新する
- D = Delete(消す):データを削除する
横に業務のステップ、縦にデータの名前を並べて、どの業務がどのデータを「作る・読む・変える・消す」のかを1枚にした表です。たとえば、受注登録、与信確認、出荷指示、請求書発行という4つのステップが横に並んでいるとします。
- 「受注情報」は、受注登録で生まれ(C)、与信確認・出荷指示・請求書発行では読まれる(R)
- 「顧客マスタ」は、受注登録・与信確認・請求書発行で読まれる(R)
- 「与信結果」は、与信確認で生まれ(C)、出荷指示で読まれる(R)
- 「出荷記録」は、出荷指示で生まれ(C)、請求書発行で読まれる(R)
受注登録のステップで受注情報が生まれて、あとのステップはそれを読んで仕事をする。データの一生が、1枚で追えます。
地味です。
けれども、業務の流れ図だけでは見えない「情報の裏側」が見える、玄人好みの道具です。
流れ図が見せてくれるのは仕事の順番です。
情報がどこで生まれ、どこで使われ、どこで直されるのかは、流れ図には描かれていません。
CRUD表は、その裏側を担当します。
2. 「どの道具で回っているのか」も、同じ1枚で見たい
ある時、現場からこんな声が届きました。
業務とデータの関係は分かった。でも、その業務がどの道具(システム)で回っているのかも、同じ1枚で見たい。
言われてみれば、その通りでした。
会社の業務は、実際には三層で動いています。
仕事の流れ(業務)。そこを流れる情報(データ)。そして、情報を運ぶ道具(システム)。
この三層は、たいていの会社で別々の資料に書かれています。
業務の流れはA資料にある。
使っているシステムの一覧はB資料にある。
両方あるのに、突き合わせは読む人の頭の中でやるしかありませんでした。
そして、頭の中の突き合わせは、それができる人にしかできません。
たいていは、古参のエースです。裏を返せば、エースが不在の日には、誰も突き合わせができないということでもあります。
3. 足したのは、ヘッダの下の1行
やったことは単純です。CRUD表のヘッダのすぐ下に「ツール」の行を1本足して、各業務ステップが使っている道具の名前を表示するようにしました。
先ほどの例なら、こうなります。
- 受注登録:基幹システム
- 与信確認:Excel
- 出荷指示:基幹システム
- 請求書発行:紙+Excel
基幹システム、Excel、紙、メール。そのステップを回している道具が、列の一番上に小さく載る。
それだけです。
ところが、この1本で表の読み方が変わりました。
業務・データ・道具の三者関係が1枚に載った途端、それまで2つの資料に分かれて眠っていた風景が、立ち上がってきたのです。
4. ツール行で見えてきた、3つの風景
風景①:二重入力
同じデータの行を横に読むと、Cが2回出てくることがあります。同じ情報が、2つの別の道具に、2回登録されているということです。
現場では「基幹システムに入れて、そのあと管理用のExcelにも入れる」が、日常として定着していたりします。
1件5分でも、月100件なら500分。
そして何より、2つの場所にある数字は、いつか必ず食い違います。
食い違った数字のどちらを信じるかは、また誰かの業務判断になります。
風景②:受け渡しの間に挟まるExcelと紙
ツール行を横に読むと、システムからシステムへ受け渡されるはずの場所に、Excelや紙が挟まっていることがあります。
システム同士が直接つながっていない場所では、人が転記しています。
転記には「どの数字を、どこまで写すか」という小さな業務判断が潜んでいて、その判断は誰にも教わっていないし、どこにも書かれていません。だから、担当者が休むと、そこで仕事が止まります。
風景③:隠れExcelの並走
本流の基幹システムの脇に、誰かが作ったExcelが並走していることもあります。
これは、悪者ではありません。現場が必要に迫られて作った補助輪です。
むしろ、基幹システムが業務に合っていない場所を正確に指し示す標識で、そこには会社の本音の業務が写っています。ただ、今までそれが「見える場所」に出てきていなかった。ツール行は、それを表の上に引きずり出します。
5. 師匠の一言:「ここから、何がボトルネックか分析しやすくなる」
この改良を、業務改善歴30年の師匠(私たちの技術顧問的な存在です)に見せたときの言葉が、印象に残っています。
ここから、何がボトルネックか分析しやすくなるね。
業務の実行者へのヒアリングも、体系的にできる。
作った側の私たちは「見やすくなった」くらいの認識でした。
けれども師匠は、この表を分析の入口とヒアリングの道具として見たのです。
分析の入口、というのはこういうことです。
道具の境目には受け渡しがあり、受け渡しには業務の判断があり、その判断のところで仕事は詰まる。
ツール行は、その詰まりの候補地を指し示す地図になっている。
ヒアリングの道具、というのはこういうことです。
「困っていることはありませんか」と聞いても、現場から本当の話はなかなか出てきません。
日常になった二重入力は、本人の中ではもう「困りごと」ではないからです。
ところが、表を指差して「ここ、両方に入れているのはなぜですか」と聞けば、話は具体的に始まります。
答えはたいてい、システムの都合か、過去の経緯か、誰かの安心のためです。そこには必ず、誰かの業務判断があります。
6. 道具の継ぎ目に、業務の判断は密集する
私たちは「業務の判断」を中心に業務を見る会社なので、この経験をこう一般化して覚えています。
業務の詰まりは、工程の真ん中ではなく、継ぎ目で起きる。
部署から部署へ、人から人へ、そして道具から道具へ。
何かが受け渡される場所では、必ず誰かが「これでいいか」「どこまで写すか」「どっちに入れるか」を判断しています。そ
して、その業務判断はたいてい、どの資料にも書かれていません。
ツール行が当てたスポットライトの正体は、システムの一覧ではなく、この「書かれていない業務判断」の候補地でした。
7. 今日、あなたの会社のExcelでできる3ステップ
この話の教訓は、システムの機能自慢ではありません。
見える化の価値は、バラバラの情報を「関係」として1枚に載せることにあります。
業務の一覧も、システムの一覧も、多くの会社に既にあります。無いのは、その2つを突き合わせた1枚です。
もしあなたの会社に業務一覧のExcelがあるなら、今日、この3ステップを試してみてください。
- 業務一覧の表に「使っている道具」の列を1本足す
- 各業務に、使っている道具の名前を正直に書く。基幹システムだけでなく、Excel、紙、メール、チャット、口頭も全部
- 書き終わったら、「同じデータが2つの道具に登場する場所」と「道具から道具への受け渡しの場所」に印をつける
二重入力と隠れExcelは、たぶん、その日のうちに見つかります。
そして、印がついた場所が、業務改善の最初の診察ポイントです。
改善の号令をかける前に、その場所で「なぜですか」と聞いてみてください。そこで出てくる答えこそ、あなたの会社の業務の本音です。
なお、JOARSでは、業務の棚卸表を作ると、このCRUD表(ツール行つき)が自動で展開されます。
手作業で突き合わせ表を作らなくても、業務・データ・道具の1枚が手に入ります。
工房会員の無料プランで試せますので、Excelで一度やってみて手応えを感じた方は、記事末尾のご案内からどうぞ。
まとめ
- CRUD表は、業務とデータの関係を1枚にする「情報の裏側」の道具
- そこに「ツール」の行を1本足すと、業務・データ・道具の三者関係が1枚になる
- 見えてくるのは、二重入力・受け渡しに挟まるExcelと紙・隠れExcelの並走
- 詰まりは道具の継ぎ目で起きる。継ぎ目には、書かれていない業務判断が密集している
- 表に1行足すことは、あなたの会社のExcelでも今日できる
最後に一つだけ、問いを置いておきます。
あなたの会社で、同じ数字を2回入力している場所はどこですか。
その場所を指差して「なぜですか」と聞くところから、業務改善は始められます。
業務改善のご相談(まずは問診から)
株式会社ファインドルートは、中小企業の業務改善を「業務の判断」から整える会社です。判断の進化ワークショップで判断の構造を見える化し、判断設計コンサルティングで打ち手を決め、打ち手工房で現場の仕組みにします。
- 業務棚卸を通じた、判断の詰まりの見える化
- 判断志向アーキテクチャ(JOA)に基づく業務の再設計
- マニュアル・ダッシュボード・自動化など、業務に合った打ち手の実装
- 業務可視化クラウド「JOARS」(工房会員・無料プランあり)
「うちの業務にも当てはまるか」を確かめるところからで結構です。売り込みはしません。
🩺 2分の自己問診(無料)
📩 業務の問診を申し込む(無料・オンライン60分)
📺 YouTube「判断の進化チャンネル」
判断の進化シリーズについて
業務改善の中心に「業務の判断」を置く考え方、JOA(判断志向アーキテクチャ)と、その実践を紹介していくシリーズです。業務棚卸、判断点の見つけ方、DEM(判断進化マトリクス)、ディシジョンテーブル、AIの育て方など、現場で使える道具と考え方を、中小企業の経営者・現場リーダー向けに解説していきます。
本記事は、代表 佐野尚人のnote「判断の進化」マガジンで先行公開した記事を、HP用に加筆・再構成したものです。
[業務の表に「ツール」の行を1本足したら、会社の詰まりが見えはじめた]