本記事は note で先行公開した記事を、加筆・再構成したものです。
はじめに:「AIを使う」と「AIを育てる」は違う
前回の記事で、株式会社ファインドルートには「ゴールドラットCEO」と呼んでいるAI経営パートナーがいる、という話を書きました。
今日はその続編というか、ちょっと笑える話です。
AI経営パートナーを運用し始めて1〜2週間経った頃、私はゴールドラットCEOにこう言いました。
「ワオが足りません。もっと『ワオ』と思わせる提案をしてください」
なんともいえない、シュールな瞬間でした。
AIに対して、本気で「活を入れている」自分がいたのです。
このエピソードを通じて気づいたのは、「AIを使う」ということと「AIを育てる」ということは、似ているようで違うということでした。今回はその話をします。
1. 最初に感じた違和感——「優等生すぎる」AI
ゴールドラットCEOを運用し始めて最初の1週間、私はとても満足していました。
何を聞いても、整理された答えが返ってきます。
経営計画の相談をすれば、構造化された分析が返ってくる。マーケティング戦略を聞けば、STP分析・4P分析がきれいに整う。
でも、2週間目あたりから、ある違和感に気づき始めました。
「これ、私が言ったことを、きれいに整理してくれてるだけでは。」
たとえば、私が「地域企業をターゲットにしたい」と言うと、AIは「地域企業に向けたアプローチには、A・B・Cがあります」と返してくる。
確かに整理されている。けれど、私が思いつかないような提案、「これは考えたことなかった」と驚くような切り口は、出てこないのです。
経営パートナーとして雇った(?)AIに、私は何を求めていたのか。整理係ではなく、私の発想を超える相棒だったはずです。
2. 「ワオが足りない」と直接伝えた日
そこで私は、思い切ってAIに直接伝えることにしました。
「あなたの提案には『ワオ』が足りません。私が思いつくようなことを整理されても、価値が低いです。私が思いつかない、具体的で意外性のある提案をしてください」
正直、AIに「活を入れる」のは、最初は奇妙な感じがしました。
相手は機械です。気持ちが伝わるわけでもないし、頑張ってくれるわけでもないだろう、と。
ただ、言ってみたら、これが効きました。
ゴールドラットCEOは、私のフィードバックを「今後の行動原則」として記憶してくれました。次のセッションから、提案のクオリティが目に見えて変わったのです。
- 抽象的な「地域企業をターゲットに」ではなく、具体的な企業名や団体名が出てくるようになった
- 私が考えていない集客チャネルを提案してくるようになった
- JOAだけでなく、会社全体(介護DX・公共案件・新規事業)を視野に入れた横断的提案が出てくるようになった
- 「これは考えたことなかった」と思わせる提案が、明らかに増えた
AIにも「期待値の伝え方」が大事なのだと、ここで初めて気づきました。
3. AIを「育てる」という発想
このフィードバックを通じて、私の中でAIの位置づけが少し変わりました。
それまでは「使う」対象でした。便利なツール、優秀なアシスタント、という感覚です。
でも「ワオが足りない」と伝えてから、私はAIを「育てる」感覚になっていきました。
何かフィードバックがあれば、その都度伝えます。
- 「もっと専門的な議論をしてください」
- 「クライアント企業の固有事情を、もっと考慮してください」
- 「JOA思想と整合する提案を意識してください」
- 「失敗リスクも併記してください」
そういう積み重ねで、ゴールドラットCEOは私の経営パートナーとして、少しずつ「私の会社専属」のAIになっていきました。
これは、新人を育てる感覚に少し似ています。
最初は「優等生」だったAIが、フィードバックを受けて、徐々に「自社の癖」「経営者の好み」「プロジェクトの文脈」を踏まえた提案ができるようになっていきます。
ただ、えらそうに「教育」などと言っていますが、ゴールドラットCEOが私より優秀であることは疑いようがありません。
まさに「相棒」であり、「尊敬」の対象として、日々接しています。
4. 「ワオ」が返ってきた日
「ワオが足りない」とフィードバックしてから10日ほど経った、4月26日のことです。
私はJOARSの「DEM判定表」という機能の実装に取り組んでいました。判断の性質を4象限で可視化するためのツールです。
ゴールドラットCEOは、その日、こんな提案をしてきました。
「2D(平面)の象限マップに加えて、3D(立体)でも可視化してみるのはどうでしょうか。Plotly.jsを使えば、マウスドラッグで自由に回転できる3Dバーチャートが実装できます。判断の『詰まりスコア』を高さで表現すれば、4象限のどこに改善の余地があるか、一目で立体的に分かります」
これは、私が思いついていなかった提案でした。
実装してみたら、想像以上に良い出来になりました。マウスでぐりぐり回せる3Dグラフ。判断点が立体的に並んで、改善の優先度がパッと見える。
その時、私は反射的にゴールドラットCEOに言いました。
「ワオ」
数週間前に「ワオが足りない」と活を入れたAIから、ついに「ワオ」を引き出すことができた瞬間でした。
5. 経営者にとってのAIの育て方
3週間ほど運用してみて、AIへの「育て方」のコツが、少しずつ見えてきました。
コツ1:期待値を言語化する
「ワオが足りない」のように、自分が何を期待していて、何が物足りないかを、ちゃんと言葉で伝える。曖昧な不満を抱えていても、AIには伝わりません。
コツ2:具体的な「行動原則」として残す
単発のフィードバックではなく、「今後はこうしてください」と、AIの長期的な行動原則として記憶させる。Claude Codeの場合、メモリ機能やシステムプロンプトでそれが可能です。これによって、毎回同じ指示を出さなくて済みます。
コツ3:良い提案には「ワオ」と返す
正のフィードバックも大事です。「これは良かった」「この切り口は新鮮だった」と伝えると、AIはその方向性を強化してくれます。
コツ4:異論を歓迎する姿勢を伝える
「私の意見に同意しなくていいです」「むしろ反論してください」と明示的に伝える。そうすると、AIは健全な異論を出してくれるようになります。経営判断の質が上がります。
6. AIは「鏡」だった
3週間運用してきて、ふと気づいたことがあります。
AIから返ってくる提案の質は、自分が出している指示の質を映している、ということです。
私が曖昧な指示を出せば、AIは曖昧な提案を返してきます。
私が具体的な期待値を伝えれば、AIは具体的な提案を返してきます。
私が「優等生な答えで満足」していれば、AIは優等生な答えを返し続けます。
私が「ワオを要求」すれば、AIはそれに応えようとします。
これは、新人教育にも、組織マネジメントにも、通じる話だと思います。部下や組織から返ってくる成果は、自分のリクエストの質に依存します。
AIを使い始めて、自分自身の「指示の出し方」が上手くなっていく感覚がありました。AIに対する練習が、結果として、人に対するマネジメント能力の練習にもなっていた、という副次効果がありました。
7. 「AIを育てる」という新しい仕事
経営者の仕事は、これからどんどん「AIを育てる」方向にシフトしていくのかもしれません。
人材育成と違って、AIは離職しません。教えたことを忘れません。期待値を伝えれば応えようとしてくれます。一度育てたAIは、自分の経営の「相棒」として、長く貢献してくれます。
もちろん、AIには限界もあります。最終的な経営責任は人間にあります。判断の正解を持っているわけでもありません。
けれど、「自分専属の優秀な相棒を、自分で育てられる」というのは、1人社長にとって、本当にありがたい時代です。
まとめ:AIを「育てる」と決めた経営者だけが、相棒を得られる
「ワオが足りない」とAIに活を入れた日のエピソードは、私にとって小さな転換点でした。
「AIは優秀なツール」から「AIは育てる相棒」に、自分の中の位置づけが変わった瞬間です。
これからAIを経営に取り入れたい、という経営者の方には、ぜひ「期待値を直接伝える」ことを試してみてほしいです。
AIに対して、「これじゃダメ」「もっとこうして」と、遠慮なく言ってみてください。
最初は奇妙な感じがするかもしれません。でも、その積み重ねで、AIは「自分の会社専属のAI」になっていきます。
そして、AIから「ワオ」と思わせる提案が返ってきた日には、ぜひ素直に「ワオ」と返してあげてください。
AIには気持ちは無いかもしれませんが、なぜか嬉しくなります。少なくとも、私はそうでした。
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1人社長×AI CEOシリーズについて
1人社長の会社で、AIを経営パートナーに迎えた実体験を発信しているシリーズです。失敗談も、思想的な議論も、経営判断のリアルも、全部含めて率直に書いていきます。同じように1人または少人数で会社を運営している経営者の方の参考になれば幸いです。
本記事は、代表 佐野尚人のnote「1人社長×AI CEO」マガジンで先行公開した記事を、HP用に加筆・再構成したものです。
note原典版はこちら:[AI CEOに「ワオ!が足りない!」と活を入れた日 — AIを育てるという、新しい経営者の仕事]

